多脾症候群のこと
《はじめに》
息子が搬送された日、先生から「多脾症候群」という名前を初めて聞きました。
それからネットで調べ、心臓病の本を読み、息子に近い病態が取り上げられている論文を読み…とたくさんの知識を得ました。
が、いつの間にかどんどん忘れてしまっているので、少しずつ備忘録として残して行こうと思います。
基本的なところしかもう記憶にないですが…。
息子は心臓以外はひとまず機能しているので、合併症については本当にざっくりです。
《名前のこと》
左右非対称に作られるべき内臓が、対称的に形成される病気、「内臓錯位症候群」。
ただ、全ての臓器がそうではないことも多く、「少なくとも1つ」が当てはまっていればこの診断がつきます。2万人に1人の確率で、2:1の割合で無脾症候群の方が多いとも言われています。
多脾症候群は左側がベースなので、「左側相同」ともいいます。
脾臓が左側にしかないので、右側相同の方は「脾臓が無い=無脾症候群」と呼ばれています。
逆に左側相同は、不完全な脾臓がたくさんついていることが多いため、「脾臓がたくさん=多脾症候群」です。
これの診断基準、実は心臓で判断されているらひく、「心房が両方左心房」だった場合に左側相同の診断がつくそうです。脾臓は関係ないことに衝撃を受けました。
つまり息子は、心房は左心房、心室は右心室ということになります…なんて複雑な…。
不完全な脾臓の中に、大きめで機能がしっかりしているものが含まれている場合もあれば、うまく機能しない場合もあり、一般的には多脾症候群の子も、普通の子よりも免疫は低めだと言われているそうです。
多ければ良いってわけでも無いんだな…と思った記憶があります。。笑
なぜこの疾患が起きるのかは不明と言われていますが、心臓の発生の仕方から専門的に分析している論文があったのでメモ。
ここまで知っておきたい発生学:左右軸の決定と内臓錯位症候群 / 山岸 敬幸(http://jpccs.jp/10.9794/jspccs.34.99/data/index.html)
《脾臓のこと》
脾臓は、古い赤血球を破壊する機能(これ、はたらく細胞で知りました←)、血小板を貯めておく機能、そしてウイルスをやっつける免疫機能があります。
脾臓は肺炎球菌やインフルのウイルスから身体を守るのが得意なので、裏を返せば、多脾無脾の子は肺炎球菌と相性が悪く、出来るだけスケジュール通りに予防接種をすることが勧められています。
大きくなると骨髄などが免疫機能のメインになってくれるのですが、小さい頃は脾臓がメインなので、免疫をカバーするために抗菌剤を飲むこともあります。
今まで通っていた実家の方の病院では、1ヶ月で手術を受けたあと抗菌剤を飲み続ける方向でしたが、自宅の方の病院では多脾の子には抗菌剤は飲ませない方向だそうです。
《心疾患のこと》
多脾症候群の子は半数以上の子が心疾患を持っていると言われています。
息子は下大静脈欠損、肺動脈閉鎖がありますが、これは右心側にある血管なので、上手く形成出来なかったのかもしれないと聞いています。
右胸心(右側に心臓がある)だから血管も逆向きなんだと思っていたので、右側の血管が出来なかったというのは不思議な感じなのですが、そういうものらしいです。いつか先生に聞こう。
また、心臓のリズムを一定に保つペースメーカーの役割を持つ洞結節と呼ばれるものがあるのも右側なので、不整脈が起こりやすいとも言われています。先生からは、多脾の子は徐脈が起こりやすいと言われたことがあります。
洞結節そのものがなくても、代わりとなる弱めのペースメーカーがあり、不整脈が起こらない事もありますが、大きくなるにつれて不整脈や房室ブロックが起き、ペースメーカーを入れるケースも少なく無いのだとか。
息子は併せて、単心房、機能的単心室(部屋は2つ存在しているが、小さすぎて使えない)、完全型房室中隔欠損(心内膜症欠損ともいう。部屋を仕切る真ん中の十字形の壁が存在しない)、共通房室弁(壁がないため、2つの弁が一つの弁として合わさって働いている)もあります。
多脾の子は単心室の子が割に少ないとも聞くので、息子は比較的レアケースかもしれません。
他にも、両大血管右室起始症や肺高血圧、両側上大静脈などがよく起こる心疾患として挙げられています。
心臓が左右対称に生まれてくることもあります。
《その他の臓器》
*肺
肺も左右対称のことが多いです。でもそんなに影響無いみたいですね。
そもそも左右違う形だって、息子が生まれて初めて知りました。
*肝臓
横に長い水平な肝臓なので、水平肝と呼ばれています。
お医者さんたちの話聞いてると、特に機能的に問題なければ、形はなんでも良いみたいです。
*胃
左寄りにあるので多脾だとそんなに形は変わらないのですが、無脾だと真っ直ぐな形になることが多く、吐き戻しが増えると聞きます。
*腸
腸回転異常症や総腸間膜症からの腸閉塞がおこることがあります。息子の腸は今のところ機能しているので先生との話に出たことがなく、あまり詳しくないです。
他にも、十二指腸閉鎖、食道裂孔ヘルニア、胃軸捻転など色々な合併症が起こる可能性があり、それに併せて手術などの必要があることもあります。
この論文(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsps/54/1/54_33/_pdf)に無脾多脾の子の消化器管の合併症のことや、予後について少し載ってました。
心疾患や合併症の種類も程度も人それぞれすぎて、多脾症候群という同じ病気を持っていても、案外共通点が少ないように思います。
ひとまずここまで。
新しい知識が増えたらまた書きますね。
《さいごに》
息子が生まれてまだ1ヶ月にもならない頃だったと思います。
あれこれ調べている中で、平成一桁に書かれた論文を読みました。0歳から成人した方まで、多脾症候群の方々の剖検についての論文でした。
その時、平均死亡年齢5歳という表記に慄き、涙が溢れたことを覚えています。
その後さらに調べていくと、無脾症候群で、平成6年、5歳で「当時出来る病院で4例目」のフォンタン手術を受けた、とおっしゃっている方をインスタで見つけました。
その論文が出たとき、まだフォンタン手術はほとんど行われていなかったと思うと、ここ30年の進化のスピードは驚くほどに早くて。
もしかしたら、息子が大きくなる頃には、本当に3Dプリンターで作った心臓を移植しましょうね、なんて話が出ているのかも。
心臓の疾患を持ったお子さん達が、息子が、そんな素敵な未来を生きることができますように。
とはいえ、こういう発表を見ると、まだ先は長いんだなという気がします。
これは無脾の子が大半(無脾症:多脾症=136:23)なので、多脾の子だけで見るとまた変わってくるのだと思いますが。
フォンタン到達率48%、10年生存率54.7%…。
2001年以降に経験したフォンタン適応の内臓錯位症候群—総死亡に関連する因子について—
(https://confit.atlas.jp/guide/event/jspccs51/subject/III-YB14-02/detail?lang=ja)