ある晴れた朝のこと

先天性の心疾患と内臓奇形をもつ息子のこと

息子が受けた手術をまとめる

 

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息子です。Twitterで知り合ったお友達に描いてもらった大切なイラストです。ふふふ。

息子が乗り越えてきた手術についてまとめていこうと思います。

 

 

 

息子の心臓について

 

何度か書いているけれど、息子は

*内臓錯位(内臓が左右対称の形をしている)

*右胸心(心臓が右にある)

*機能的単心室心室は2つ存在してるけど、1つは痕跡的で働いてない)

*単心房

*完全型の房室中隔欠損(心房中隔と心室中隔がクロスしているところが生まれつき存在しない)→大きな心室と心房が1つずつあるような形をしている

*共通房室弁(三尖弁と僧帽弁の片方ずつが弁になっている)

などの奇形を持っている。

 

そしてややこしいことに、息子の心室は右心室で、心房は左心房だ。

せめて心室と心房の左右が逆だったらと何度も思ったけれど、それは仕方がない。

 

 

息子は1歳2ヶ月までの間に、肺動脈の形成術、グレン手術とフォンタン手術の3つの手術を受けた。

(正確には術後感染で緊急手術を受けたので4つだけども)

それぞれの手術についてまとめていこうと思う。

 

 

心室の子は何故手術を受けるのか?

 

本来、人間の心臓は、左心室から送り出した綺麗な血液が全身を巡り、全身の細胞に酸素を届ける。

そして、役目を終えた汚い血は右心房に入り、右心室から肺に送り出し、肺でまた綺麗な血に浄化し、左心房を経由してまた左心室に戻ってくる。

Twitterで分かりやすい図をあげてくださったココハレさん(@cocorogahareru)のGIFをお借りしました。)

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(細胞で行われている内呼吸。酸素をもらって、使った二酸化炭素を返している。この赤い血が綺麗な血、紫色の血が汚い血)

 

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(肺の中では、全身を巡って帰ってきた汚い血から二酸化炭素を受け取り、また酸素を送り出す。そしてまた全身を巡る)

 

心室(綺麗な血)→全身→右心房(汚い血)→右心室(汚い血)→肺(浄化)→左心房(綺麗な血)→左心室 という流れだ。

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(北海道心臓協会さんのフリー素材お借りしました)

 

しかし、単心室というのは、その名の通り心室が1つしかない。息子は単心房だから心房も1つしかない。

つまり、心臓の中では常に綺麗な血と汚い血が入り交じっていることになる。

 

 

汚い血は、酸素を各細胞に渡して二酸化炭素を受け取るという役割を終えた血であり、体を巡っても特に何か仕事をしてくれるわけではない。

綺麗な血だけがせっせと酸素を運び続けるけれど、汚い血が混ざっているとどうしても酸素が足りなくなってしまう。

息子も、生まれてからずっと、すぐに息が切れたり、末端に血が行き渡らず爪が変形したり脆かったり髪の毛が伸びなかったりと、常に「酸素が足りない」感があった。

 

サチュレーション(動脈の赤血球中のヘモグロビンが酸素と結合している割合=全体を100としたうちの、綺麗な血の割合?)も、普通の人が96-99%程度なのに対して、息子は80%程度だった。

(因みに生後4日目、心雑音が産院で発見された段階では95程度だった。大きな病院に救急搬送されてから、95では心臓が頑張りすぎているから、薬で調整して80程度に落としますと言われた。高ければ良いってものでもない。バランス。)

 

このままでは身体の成長や、発達にも影響を与える上、姑息術(1回目の手術)のみの30年生存率は16%(2004年)。

 

それをどうにかするために開発されたのが、グレン手術とフォンタン手術だ。

心臓の中の綺麗な血と汚い血を分離して、綺麗な血を体の隅々まで行き渡らせたい。

簡単に言うと、血管をつなぎ変えて、汚い血は心臓を介さず直接肺に送ってしまおうという手術だ。

心室(綺麗な血)→全身(汚い血)→肺(浄化)→心房(綺麗な血)→心室(綺麗な血)

という流れになる。

この手術は2回に分かれていて、グレン手術で上半身の血を、フォンタン手術で下半身の血を、肺に送るようにするのが一般的だ。

まとめて繋ぎ変えると心臓の負荷が大きいため、身体の成長を待って段階的に行っていくのだとか。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcs/33/1/33_1_93/_pdf

 

この手術によって、30年生存率は80%(2017年)まで改善した。

ただし、術後30年の間に死亡を含む重症合併症は90%発生している。主治医からも、『他の器官に負担をかけて心臓を楽にする手術』『良いことばかりの手術ではない』と何度も念を押されている。

 

 

息子の血管について

息子も例に漏れず、これらの手術を受けることになった。

ただし、息子は心臓周りの血管も個性的だったため、これがかなり手術の内容に影響を与えた。

 

まず肺動脈が閉鎖している。生まれて4日間、健常な赤ちゃんとして扱われていた息子だが、実際は動脈管が閉じたら死ぬというかなりの瀬戸際にいた。

しかも動脈管って、改めて画像で見るとかなり細い。息子の命を繋いでくれた動脈管よ、ありがとう。

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(看護rooさんのフリー素材お借りしました!胎児の血液循環。)

 

誕生後動脈管は自然に閉鎖する。

そのため、大きな病院に入院したあとは、動脈管が閉じないようにする薬を点滴で繋いだ。

ただ、これは長期間使っていると効かなくなってしまう薬。一方で、手術は出来るだけ身体が大きくなってから行いたい。

そのため、主治医がこまめに様子を見、検査を行って、必要な時だけ点滴をする形で日々は過ぎていった。

 

 

BTシャント術

1回目の手術は生後1ヶ月、このいつ閉じるか分からない動脈管、そして閉鎖している肺動脈の代わりに4mmの人工血管を入れた。

人工血管の太さは血管の様子、これからの成長見込み(小さい体に大きすぎる血管を入れてしまうと、肺に流れる血の量が多すぎて負担になる)などを踏まえて当日、開胸してから決めるとの説明を受けた。

また、息子は片側の肺動脈が括れていて、左右で血の流れる量が偏っていたため、くびれている所を切除して、繋ぎ合わせるということもした。

 

そして術後8日後に抜管、11日後にICUを抜け、18日後に退院。初めてのお外、初めてのおうち(と言っても実家😇)を経験した。初めて病院の外に出る瞬間は家族に頼んで動画を撮った。

看護師さんたちも喜んでくれて、嬉しかったな。

 

 

上大静脈肺動脈吻合術(TCPS/川島手術)(グレン手術)

2回目の手術は、生後6ヶ月の時。

1ヶ月の時に入れた人工血管が身体の成長に対して段々小さくなってきて、サチュレーションは70台まで下がり、生後4ヶ月からは酸素もつけていた。

流量2Lでも85を割り込むようになった頃、そろそろ限界だからと手術が決まった。

 

グレン手術は先述した通り、上半身の血液を心臓ではなく、肺に流れこむようにするものだ。

具体的には、頭や腕など上半身の各臓器を通ってきた汚い血を心臓に送る役目を持つ血管=上大静脈を、肺に流れ込む動脈(肺動脈)と繋げてしまう。

そして、続くフォンタン手術で下大静脈を繋げる。

下大静脈は、肝臓、腎臓、腸など下半身の臓器や脚を繋ぐ大きな血管で、下半身の各臓器を通ってきた汚い血をまとめて心臓に送る役目を果たしている血管だ。

 

以上の流れが一般的だが、息子には実は下大静脈がない(下大静脈欠損)。

そのため、「グレン手術」という名前にはなっているが、息子の場合正確にはTCPS(total cavopulmonary shunt)という手術名になる。川島法(Kawashima procedure)とも言われていて、実は英語版wikiには載ってる。

 

(さっき調べたら、2020年に日本語版wikiが出来てました!/2021.09.11追記)

 

説明担当の心臓外科の先生から、ググってみてくださいと言われたけれど、日本語の資料は1980年代のものが多く、CiNiiも見たけれどあまり見つからなかった。

 

脱線してしまった。

 

とはいえ、実は下大静脈が無いこと自体は、意外と大したことではないらしい。背中近くにある【奇静脈】というサブの血管がもともとあるので、それを代わりに使っている。

 

 

問題はこの奇静脈。

実はこの奇静脈、上大静脈と繋がっている。

つまり、上大静脈を肺と繋げると、上半身だけでなく下半身の血もまとめてドバッと来てしまう。

通常のグレン手術(6割)→フォンタン手術(10割)のところ、息子のグレン手術(8割)→フォンタン手術(10割)という具合。

 

※奇静脈は下半身の臓器と繋がっているが、肝臓と小腸を通る肝静脈とは繋がっていない。肝静脈には体内の1/4の血液が流れているため、グレンで10割が流れ込む訳では無い。

 

先述した通り、突然大きく血液の流れが変わるため、普通のグレン手術よりも心臓や血管への負担が大きく、リスクも高く、浮腫みやすくなるとの説明を受けた。

ただ、この変化に耐えきることが出来ればフォンタンへの移行はスムーズだとも。逆に、肝臓の血が流れ込まないことによる悪影響の方が大きいため、フォンタンをしないという選択肢が無くなるとの説明も受けた。

 

ヒヤヒヤしながら手術の日を迎えたけれど、結果、とても順調に息子は循環に順応し、6日間でICUを抜け、一般病棟に戻ってから8日ほどで退院となった。

酸素無しでサチュレーションは90まで上がり、酸素も離脱。

ただ、挿管の際に傷をつけたらしく、数ヶ月声が出にくくなった。

 

 

 

フォンタン手術(TCPC)

最後の手術は1歳2ヶ月。

11ヶ月の時に行ったカテーテル検査の結果、既に肺動静脈ろう(肺に出来る余計な血管。肺胞を飛び越える形で血管同士を繋いでしまうため、汚い血が体をぐるぐる回ってしまう。)がたくさん出来てしまっているため、なるべく早くやりましょうという話を受けた。

肝臓の血が流れないことによるデメリットとは正にこれで、まだメカニズムは解明されていないものの、肝臓の血が合流しないと肺動静脈ろうが出来やすくなる。そして、合流させると自然と消えていくのだそうな。人体摩訶不思議。

 

が、緊急手術や主治医の出張などが重なり、結局1歳2ヶ月まで伸びた。

 

 

削られるメンタル……。

 

さて。本来は下大静脈と肺静脈を繋げる手術になるが、息子に残っているのは肝静脈だけ。

つまり、肝静脈と肺静脈を繋げる手術になる。

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このいらすとやさんの画像を見てもらえると分かりやすいけれど、肝臓は心臓のすぐ下にあって、肝静脈の血管自体も短い。(いらすとやさんこんなのも描いてるの…すごい…)

 

長い人工血管を使って肺まで血管を伸ばすのもリスキーだということで、いくつかの案が提示された。

 

①心外導管

心臓の外に人工血管を入れて肺まで繋ぐ案。フォンタン手術で1番メジャーな方法だと聞いている。

しかし、心臓と肝静脈が近すぎること、右胸心の息子の血管が複雑すぎて人工血管を上手く繋げる見通しが立たないことから、早々に却下された。

 

②心内導管

心臓の中に人工血管を通して、肺まで繋ぐ案。

最短距離を通せることがメリット。

心臓を開くのでリスクは大きいこと、また、心臓を触るため不整脈が起こりやすいことがデメリット。

息子のような多脾症候群の子は、体の左側をベースに内臓が作られているため、右側にある機能が働かないことが多々ある。

ペースメーカーの役割をする洞房結節は右側にあるため、機能していない可能性が高く、今は平気でも、後々徐脈のリスクが高いとのこと。

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(こちらも看護Roo!さんのフリー素材。電気信号がこんなふうに伝わって、規則正しい動きをしてるよ!っていうイラスト。)

 

逆になぜ今は大丈夫なのかと言うと、洞房結節ほどじゃないけどペースメーカーの役割を果たす部分(予備)がいくつかあるため、それが働いているんじゃないかと。でもやっぱり機能としては弱いので、心臓を触ったり、刺激を与えることで破綻する可能性はある。

以上のことから、不整脈のリスクを検討する必要がある。

 

③肝静脈と奇静脈を繋ぐ

イレギュラーな存在同士を人工血管で繋いでしまう案。

奇静脈は背骨に近いところにある血管で、肝静脈は心臓のすぐ下にある血管。

扱いにくい血管同士を繋ぐことになる上、ほとんど前例が無い(血管同士が近くにあって繋いだケースが多く、人工血管を使って遠い血管同士を繋ぐ息子のようなケースは更に無い)ため、予後が分からないというところもある。

ただ、心臓を触らないというのは大きなメリット。

症例としてはこちらだけど、人工血管は使ってなさそう。

〇下大静脈欠損を伴う左側相同に対して肝静脈-半奇静脈吻合でTotal cavopulmonary connectionを確立した一例(2015)

 

(こちらも近いですね。/2021.09.11追記)

〇両側肺動静脈瘻および左肺静脈狭窄を合併した
多脾症候群に対する完全右心バ イパス手術の1例 -半 奇静脈前方転位および半奇静脈-肝静脈直接吻合-(2007)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcvs1975/36/2/36_2_100/_pdf/-char/ja

 

 

②か③かは当日開いてみて決めますと言われて、当日を迎えた。

そして、手術開始から8時間経った17時、主治医からの報告で③になったとの報告を受けた。

②の心内導管は血流の制御が難しく、左右の肺に均等に行き渡らないと判断されたとのことだった。

 

(先生方から、何度も「両側均等に」という話をされていたのだが、これは肝静脈の血流が左右均等でないと、TCPCの後でも、流れる量が少ない側に肺動静脈ろうが出来てしまうという症例があったからなんだろう。再手術までした前例があったのを、術後2年弱経って初めて知った。

先生方も手探りで治療を模索しているんだろうなと感じる。息子の治療も、いつか未来の子どもを救う助けになると良いなと思う。/2021.09.11追記)

 

主治医からは今までの手術と比べると、内臓がかなり浮腫むので回復に時間がかかると言われていた。

そしてその通り、術後の経過はあまり良くなくて、1週間ずっと熱があり、嘔吐が続き、食欲もなく、鎮静を入れても寝られず、一日中泣き通していた。

呼吸器は抜けたけれど、その後も痰が増え続け、何だかおかしいと思っていたら、創部感染で緊急手術になってしまった。

その日のことはこのブログに書いていた。

 

緊急手術後の後の回復は目覚ましかったけれど、お腹はパンパンで嘔吐が多く、食欲もなかなか元に戻らなかった。

首もふにゃふにゃで座ることも出来ず、こんなので大丈夫なんだろうか…と不安になりながらも、ルートは次々と外れ、緊急手術後5日間でICUを抜けていた。

しかし一般病棟に戻って、看護師さんにちやほやしてもらったら早々にバンボに座ってごはんを食べ始めた…。メンタルね……大事だよね…………←

 

とはいえ、骨まで感染していたため、菌を完全に殺せるよう点滴を毎日入れることになった。60日間入れると言われたが、調子が良いため点滴を始めて30日のクリスマスで退院することが出来た。

肺にも負担をかける手術だったこともあり、サチュレーションは95前後だったけれど酸素お持ち帰りになった。

 

術後3ヶ月、担当医が循環器に移ったところで酸素は終了となった。

サチュレーションは術後4ヶ月頃まで97をキープしていたが、術後6ヶ月になる頃95に下がった。主治医からは、「97は高すぎたくらい。フォンタン後は95前後で落ち着くことが多いから、ちょうど良いよ」と言われた。

息子の心臓は頑張ってしまいがちらしい。

どうか無理せず長く生きて欲しい。

 

こうして息子の手術はひと段落を迎えた。

 

 

その他の治療

1回目の手術から3ヶ月、2回目の手術から5ヶ月の時にそれぞれカテーテル検査を行い、前の手術の確認、次の手術のための身体の確認、側副血管にコイルを詰める治療をしている。

次はフォンタン後1年。末永く機能してくれますように。

 

 

こうやって見ると、なんとも複雑な身体だなと改めて思う…。

そして本当にたくさんのことを乗り越えて来てくれたね…よく頑張ったよ…。

 

 

余談だけれども

 

私はいつもお世話になっている病棟が好きだ。

今まで小児科、保健所、役所、支援センター他色んな人にあって息子の病気の説明をしたけれど、「なんだかよく分からないけどたいへんな病気」という感じの雰囲気になり、「大変ですね…」と一線引かれるのが常。(なんなら息子を産んだ産婦人科でもそんな感じ…笑)

生まれた頃から息子のことを知っていて、病気のことも私以上に理解してくれている病棟は、実家のように感じている。

息子も何だかんだ、看護師さんが来てくれるとにこにこしているし、大好きな看護師さんには、一生懸命考えて自分の出来る芸を次々に披露していた。かわいい。(ただし男性看護師には塩)

 

術前、検査前、気を張りつめて体調を整え、病棟に入った時のほっとした気持ち。手術に送り出した時、私の涙にもらい泣きした看護師さんの涙。大変な時期を過ぎて一般病棟に帰ってきたときの気持ち。停滞のもやもやした気持ち。ひとりカーテンの中でめそめそしたあの時の気持ち。色んな気持ちが詰まった病棟。

実家から少し遠くに住むことになってしまったため、これからは数年に1回しか行くことは無い、、はず…。(実家で体調崩したら行くかもしれない…←)

卒業した今、少し寂しい。看護師さんたちと、病棟保育士さんには感謝が尽きない。

 

そして、これから産まれてくるみんな、グレン、フォンタン手術に挑む勇者のみんなが無事に手術を終え、大きくなれますように。

願いを込めて。